シンポジウム
あなたにもできる暴力防止のためのグローバルな社会貢献(2)
社会的課題の見える化と解決へ
NPO法人エティックソーシャルイノベーション
事業部マネージャー 佐々木健介さん
「社会起業家」の継続的支援
1993年からエティックの活動を始めて、大学生が学生時代から社会的課題や自分でビジネスを始めることにどんどんチャレンジしていくことの側面支援をさせていただいています。
私が担当しているのは社会起業家の支援という分野です。2001年からスタートして、子育て支援、教育、地域のエネルギーの問題、地方創生とテーマは様々ですが、そういう分野でリーダーシップを発揮していきたいという若手の応援をすることをしてきています。
今回のテーマで言うと、様々な社会的課題があるということを広げるだけでなく、行政と連携し、企業とも適切に付き合っていくことによって、良い形で解決していくモデルを生み出していくことを仕掛ける人を「社会起業家」と呼んで、応援しています。
いろんな分野で若い人たちが手を挙げて仕事にしてチャレンジしていこうという人たちが増えています。その人たちが一時期の頑張りで疲れてしまうことなく、どうやったら事業として継続的にやっていけるかと支援する取り組みをしています。
西田
ありがとうございます。今、それぞれご発言いただいた活動について、もっと詳しいことはどこをアクセスしたら拝見できるのでしょうか。
千田
私はYahooニュースなどに書いていますし、議連が修正案を含めていろいろな資料を出しているので、見ることができます。ただ、各国のシステムに関する資料はかなり間違いが散見されて都合が良いような形で紹介されているので、もう少しきちんと見る必要があると思います。法案の批判についてはNPO法人WANのホームページに弁護士他の有志による批判、逐語的な批判が掲載されています。
山岸
カラカサンが出している調査報告書が3つくらいあって、移住連では外国人へのDV施策に関して全部の自治体に調査したものもあり、2011年のものです。
最近ウェルクが出した『在住外国人DV被害支援 支援員のためのガイドブック』(2017年)と『在留資格に翻弄されないために 在住外国人DV被害者ガイドブック』(2017年)があります。
移住連は2ヶ月に1回情報誌を出していて、移住女性の特集などいろいろな外国人に関する情報と生活に関するものが恒常的に出ています。ぜひアクセスしてください。
方
韓国のことなので、日本では資料が手に入りにくいと思いますが、「タヌリコールセンター1577-1366」で検索しますと日本語のホームページにアクセスできます。多文化家族支援センターについては韓国語の内容ほど細かくは書いていませんが日本語が出てきますので、韓国でどのような実践がされているのか、知っていただくことができます。
タヌリコールセンターがどういう仕組みになっているか、日本では24時間体制がないのでわかりにくいかもしれませんので補足説明させていただきますと、ソウルセンターにはおよそ50名の外国人相談員がいて3交代勤務をしています。地方センター6カ所は、ほぼ日勤なので、夜になると自動的にソウルセンターに電話が廻ります。そこで一時的な緊急対応をして、次の日の朝に地方センターに引き継ぎをして連携する形になっているので、全部のセンターが24時間勤務というわけではありません。
私が勤務していたのはテジョンセンターです。各センターがどのように機能しているかはテジョンセンターを参考にしていただければと思います。運営は100パーセント政府の資金で行われています。かなり複雑な相談になるのですが、ほとんど全て外国人の相談員が直接相談に携わっています。センター長は福祉の修士や博士を修了していたり、社会福祉士の有資格者などで、スーパーバイズに入りながら実践を行っています。
外国人の相談員はもともと母国で相談や福祉の経験者ではありません。私はたまたま社会福祉士だったのですが、ほとんどは一般のあっせん業者で入国したお嫁さんたちでした。この女性たちが入職後に140時間の性暴力、家庭暴力の研修を受け、日々の業務で実践しながら相談員の経験を積み、専門相談員に育っていくプロセスが素晴らしかったと思います。
西田
親子断絶防止法案の問題については、シェルターネットワークでは初めての公開の場になります。これまでは皆さんで支えられ、当事者と支援者がたくさんの勉強会を重ねて問題の共有をされてきたのですが、個人の安全を守るために外へ発信することよりも注力されたのは内側の仲間どうしの勉強会だったと思います。しかし行政の各現場の方々、支援者、研究者(社会学者)間で、こういった問題の現状や実態を共有されないことで起こる誤認や危険はもとより、社会的損失を共有しておかなければ、次の世代にとっての不合理、不適切な損失がまだまだ起きていると思うのですが。
家族の中にこそ暴力がある
千田
皆さん、支援されている方は暴力に関心をおもちだし、実践もおもちと思うのですが、支援者以外の人は暴力自体がとても悲惨で辛いことなので、信じたくないという気持ちがまずあると思うのです。特に家族という場所は心のよりどころで、ほっとする場所でありたいと思っているので、家族の中にこそ暴力があるという事実自体を否認したいという気持ちがあるのです。
離婚は多くの場合、暴力が占めています。時には半分くらい暴力が占めているにもかかわらず、「暴力なんて本当に特殊な、例外的な事象で、家族自体は愛し合っているはずだ」という信念を持ち続けたいという心理的な規制があると思うのです。
いろいろなことがあると発信していかないと、ただでさえ情報が無いなかで、暴力は例外的で可哀想な特殊な人たちがいるだけで、社会をあげて取り組んでいくものだと、なかなか思ってもらえない。同時に、否定したいという気持ちがある。痴漢のえん罪もそうだと思います。私も耳を疑うような言説があって、「生活保護をもらいたい人が暴力を偽装している」「離婚したい人が暴力を偽装している」という声も大きくあがっています。実態を知ってもらわないと、短絡的な間違いに結びつくこともありますから、一般の人に実態を知っていただくことは大事だと感じています。
「暴力なんてださい」と言うスウェーデンの若者
西田
どこの国にもありますが、教育の一環、しつけの一環、良かれと思ってと、暴力を全面否定ではなく、少し是正した要素と共有した時代があったと思います。30余年前にスウェーデンで法律として成立し、何年か前にNHKで紹介されてましたが、町を歩く若者に「暴力についてどう思うか」と聞くと、「今時暴力なんてダサイ」という共有定義ができているのです。スウェーデンがずっとそうだったわけではなく、社会の世論、定義、共通の価値観が入ったことによって、暴力に対する否定的なものを皆で共有する社会ができたと思うのです。
2020年、オリンピックですが、クリーンアップ作戦なら非暴力作戦はやらないのかと思っています。社会全体として良い意味で、えん罪の問題は考えなくてはいけないですが、どういうふうに人々が前向きに生きて、その人の尊厳を守るという視点からも暴力の問題をいろいろな人と共有できると良いと思います。山岸さんは暴力に対する社会定義、世論形成について、どんなふうに思っていますか。
当事者が自分の経験から話す言葉はすごく強い
山岸
本当にひどい社会に対して訴えていくことの難しさを、暴力の被害者の支援運動で感じるところはあります。小さい輪でも共感を広げていくことは可能で、当事者が発言する場は支援者が発言するのと全く違う大きなインパクトがあります。
例えば、こういう場でも良いのですが、カラカサンが活動している地域で、交流企画や男女共同参画センターや地域のお祭りに自分たちが出ていって、文化の交流もやりつつ自分たちの経験も語るなかで、理解と共感がだんだん広まっていくのです。当事者が自分の経験から話す言葉はすごく強く、人と人の関係から共感の輪は広がっていくので、暴力の経験であっても伝えていく。それがどんなにひどいことで、そんなことが無い社会を皆で目ざさないといけないということを納得していく大きな力になると思っています。
個人の問題の支援と国家としての損失
西田
当事者が社会から逃避するのでなく立ち向かう、正しく認識を共有していくためにどういう方法があるのか。昨日、オルガさんという一人の女性のたくましい生き方のなかに感動された方も多かったと思います。皆がスーパーレディになることは難しいですが、聞いた話を友達と話してみる、「こういうことが世の中にあるよね」と、少し広げたところでプライバシーを守りつつ、「こんな問題が身近にあったら大変だよね」と、個人ができるところで広げていくことも大事だと思います。
児童福祉法、乳児園や養護施設の社会的配慮の問題は、先進国、経済的にも頑張ってきた国だからもう少しちゃんとやっているかと思ったら、実情はゼロ歳から15歳まで施設にいて、その後の人生を追跡してみると、非常に困難な状況にあります。公的資金が0歳から15歳までに、一人に1億1000万使われているにも関わらず、決してハッピーではないというのは、本人にも、国家としても必要な政策の見直しやコストパフォーマンスとしても損失であると、国会議員の方々や各界の方にお話しました。
この問題も同じような要素があるのではないかと思うのです。個人の問題の支援をするのでなく、一人一人がいかなる事情があろうと自立的に、公的資金が活用されるならばもっとかけなくてはいけない。どういう自立の仕方、どういう守り方があるのか、個人の支援と別のステージで考えていく場をつくっていくと良いのではと思うのです。
方さんは韓国の方と結婚されて、日本の方が進んでいるかという自負をもって帰ったにも関わらず、いろいろ驚いた状況があると思います。先駆けたところの韓国の良い点と、今日本で活動するなかで、こうすると支援がやりやすくなるというご意見はありますか。
被害者が社会に貢献しているとアピールすることの意味
方
私は自分自身も国際結婚をして日本に在住しながら外国人支援に関わるなかで、日本では外国人専門相談が少なくいつもどこの窓口に行ったらいいんだろうという状況でした。その後、韓国での法律と政策を伴った支援体制の中での経験を経て、再度日本に戻り今現在は横浜市で外国人の母子世帯の自立のコーディネートにあたっています。
先ほど山岸さんがおっしゃっていましたが、当事者の方に語ってもらう機会が日本にはあまりにも少ないと思います。当事者の外国人自らがそういう場所を作るのは難しいので、韓国ではセンターが主眼になって場をつくり、そこで外国人の当事者が自立して成功した体験を語ります。「私はかつて被害者だったけれど、これこれの支援を受けて自立し韓国で子どもを育てて韓国社会に貢献している」とアピールすることで、政策と支援の意味が一般市民にも理解されるわけです。その場をつくっていかなければならないと思います。現在私が支援しているある母子は共にかつてのDV被害者であり、精神と身体両方の障害手帳を持ち地域で孤立して生活しています。でもこのような方たちをアドボケイトする場所がどこにもないという現実があります。
日本も全国各地に外国人支援団体がありそれぞれに非常に熱心な取り組みがなされています。ただ、ほとんどの団体が運営資金の関係などから窓口対応時間や支援の内容が限られてしまっていて本当に必要なところに支援が行き届いていない現状があるように思われます。この全国各地に置かれている機関が協力し、統合しながら暴力被害支援を含めた外国人のためのワンストップ型の支援センターなどを開設し、そこに自治体が資金を集約するなどの方法でより専門性の高い外国人支援機関をつくっていくことも一つではないでしょうか?
西田
このような可視化されていないテーマをどう可視化していくか。良いか悪いかという価値判断以前に、どうすると困っている人たちの支えになるか、自立支援につながるか、いろんな分野で考えていくことが大事だと思います。
これからは広げる、社会で共有するということで、それぞれの立場でどんなことだったら可能性としてあるか、どういうことだったら皆さんのそばにいる方とできるかという意見を聞いていきたいと思います。これから是非一歩ずつ進めたいというアイデアを出していただけますか。幅広い大きな話をどうぞ。
韓国での支援活動から考える在住外国人女性支援
母子生活支援施設カサ・デ・サンタマリア
アフターケア担当職員 方こすもさん
「移住女性緊急支援センター」での経験から
本日は、自分自身も移住女性として居住しながら勤務していた韓国の「移住女性緊急支援センター」という暴力被害のセンターでの経験からお話させていただきます。メディアを通じてご存じの方もいると思いますが、韓国は移民政策を積極的に取り入れていて、政策的にかなり進んだ取り組みがなされています。
韓国の国際結婚は2006年前後をピークに増加の傾向にあります。昨年度の韓国の在留外国人数は総人口の3.8パーセント、197万人でした。日本は238万人で、総人口の1.8パーセントですので、韓国は日本の倍の外国人を受け入れていることになります。韓国では農村地帯の嫁不足が1980年代くらいからかなり深刻になって、中国、東南アジアの女性たちを嫁として迎え入れるようになりました。2000年代に入ると都市部でも少子高齢化が深刻化するなかで、対策の一環として政府が国際結婚を推奨したために、国際結婚が増加していきます。そのなかでトラブルも発生し、そうした課題に取り組んでいくために、政府は2008年3月、「多文化家族支援法」を制定しました。
ほとんどの自治体にある「多文化家族支援センター」
韓国の多文化家族支援政策の特徴は、多文化と移住女性の定義にあります。韓国で「多文化家族」「移住女性」という場合それは、「韓国籍の配偶者と婚姻関係にある結婚移民者または、帰化による韓国籍者による家族」となっています。韓国でやっていたとても良いサービスに、子どもの学習支援があります。子どもたちが学校から帰ってきた後、「多文化家族支援センター」などから自宅にチューター(先生)が派遣されてくるのです。週2日から4日ほど、無料で韓国語を教えてくれ、学校の宿題も見てくれます。私が働いていても、家庭教師のように無料で来てくださいました。ところが、友達のカナダ人の家庭はお父さんとお母さんがカナダ人なのでハングル語ができないのですが、「多文化家族」ではないので先生が派遣されない、サービスを受けることができないという矛盾したことが起こってきます。
最近問題になっているのは、韓国籍を取得した後にすぐ離婚して、本国の男性を招き入れて再婚するというパターンです。これも多文化家族になるわけです。こういう方がサービスを受けることが増え一般市民のなかに、多文化家族や移住女性への悪いイメージが定着しつつあります。政府もこうしたイメージを払拭しようといろいろ努力しているようですが、なかなか難しい現実があります。
こうした多文化家族を支援するために、韓国には「多文化家族支援センター」が217カ所あります。全国の自治体が235なので、ほとんどの自治体にあることになります。入国後すぐにそこに行けば、韓国語や韓国の文化や伝統料理を教えてくれます。仕事をしたいのであれば、パソコン教室や資格取得が可能な教室、あるいは相談なども受けられますし、心理的な課題があれば心理相談も受け付けています。
私が勤務していた「移住者女性緊急支援センター」は、現在、「タヌリコールセンター」に名称変更されています。全国7箇所に設置されていて、暴力被害や在留資格、夫婦の問題といった専門の相談をする機関です。ここでは365日24時間、移住女性たちが母国語で相談することができます。暴力被害に遭った女性たちは、必要に応じて移住女性専用のシェルターに入所することができます。日本ではシェルターというと外国人も日本人も一緒になっていると思いますが、韓国では外国人女性は別になっています。このシェルターは国が7割、地方自治体が3割の資金で運営されています。
不可欠な暴力被害専門の相談所
また、全国に17カ所の性暴力ワンストップセンターがあり、私も連携したことがあります。大学病院のなかにあって医師と女性警官が常駐しながらワンストップで支援し、私のような通訳者が入って、外国人専門の暴力被害機関と一般の機関が連携しながら進めていくしくみになっています。やはり外国人専門の機関があることで、一般の機関も生きてきますし、外国人の支援が進んでいきます。
DVや性暴力はなかなか相談しにくいものです。自分の国にいて母国語でもなかなか相談できない分野です。そのような分野で暴力被害専門の相談所があることは本当に不可欠だと思っています。2020年のオリンピックを目前にして、日本の在留外国人は今後ますます増えていくことが予測されます。法的な整備、支援体制の整備を行わなければ、外国人の方々の日本での安全や人権は守られないのではないかと思います。